新川直司 『さよならフットボール』

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)


「フィジカルにとらわれていたのは―――私だ」

感想


男女がギリギリで一緒にプレーできる中学生の時期を、スナップショットみたいに瑞々しく切り取っている、という印象を受けました。でも躍動感があって、それと相まって美しいとも思いました。とてもキラキラしている作品です。


恩田希は、中学のサッカー部に選手として所属して、女子ながら男子に交じってプレーしている。しかし、試合には出さないという条件で入部を許されている。にもかかわらず、恩田は試合に出ようとする。その訳は、小学校の時に恩田がサッカーを教えていた男子と再会した時にあった。男だけが持つフィジカルの前に、女は何もできない―と、言われてしまったのである。


このように、本書のテーマとして、男女の肉体的違いと、フィジカル対トータルフットボールとがあります。これらがとても分かりやすく伝わってきます。というのも、設定が絶妙だからです。相当不利ではあるものの、女子が男子と肉体的になんとかやっていける時期に、男子に立ち向かう女子のプレーヤーを主人公として投入しています。この設定はテーマとマッチしていて、とても説得力がありました。


また、サッカーの描写も躍動感があって、見ごたえがありました。プレー中の描写は、そのアングルがぐるぐる変わるのですが、一つ一つが迫力をもっていて、抜き去るところ、スルーパスが通るところ、そしてタックルで接触するところなどなどが次々に出てきます。サッカーの名プレー集のスナップショットを見ているような気になれました。それから、作中で流れる時間はほんのわずかです。1週間、長くて2週間だと思います。一瞬とも言えそうな短い時間の中で、登場人物たちが生き生きと描かれていて、なんというか、美しいな、と思いました。


二巻で終わってしまって、もう少し続きを読みたいと思うところもあります。でも、ここで終わらせることで、ごく限られた時期の瑞々しさや美しさが輝くようにも思いました。