河合克敏 『モンキーターン』

モンキーターン 1 (少年サンデーコミックススペシャル)

モンキーターン 1 (少年サンデーコミックススペシャル)


「はいあがって来なければ終わってしまう。
あきらめるのは、ケガと闘って闘って闘い抜いてからにして。」

感想


 本作は、主人公の波多野健二が、高校の担任に競艇選手になることを勧められ、担任に競艇場に連れて行ってもらった経験から、競艇選手の養成所に入り、そこを出てプロとして活躍する姿を描いたものです。本作を読んで、競艇について、一通り分かるようになれました。


 私は競艇について、その存在を知っているけれど、それがどのようなものかはいまいち分かっていませんでした。しかし、本作を読み進めていくと、競艇ってこんなスポーツなんだ、というのが徐々に理解できました。スピードが80kmも出るところ、80kmを出しながら6艇で高速旋回をするところ、競技開始よりも助走を早く始めるという変わったスタート方式(フライングスタート法)を採用しているところ、などなど競艇の基本的なところが丁寧に描かれていました。その基礎の部分を、競艇選手の養成学校を通じて描いていたため、すんなりと競艇の世界の中へ入っていけました。競艇について、作中で印象的だったのは、ケガや命の危険と常に隣り合わせにもかかわらず、選手たちは一着を目指してギリギリのところまで張り込んでいるところがとても印象的でした。競艇へのイメージが変わりました。とてもストイックなものだと思いました。


 また、レース以外での選手の生活は素人からすると最も分からなかったところですが、この部分も丁寧に描かれていました。選手はただボートに乗って走るだけではないこともきっちりと描かれていました。レース期間中は、ピット裏でエンジンやプロペラの整備などに忙しく動き回っているところ、夜は宿舎に泊まり外部から隔離されるところなどが分かりました。また、レース期間以外でも、プロペラの作成に励んでいることも分かりました。


 別の点になりますが、競艇のような個人スポーツにおいてプロはどうあるべきかについても描かれていました。主人公の波多野がなぜ成功していくかを、本巣研修所の教官、同期の純や三船ら、師匠の古池さん、先輩の洞口父や榎木ら、そして洞口息子と青島たちが語っていきます。その中で自分が印象的だったのは、「艇王」榎木が波多野の人懐っこさと物怖じしなさを語っていたところです。波多野が榎木に対して初めて会話を交わす時に、優出できたらプロペラを見せてくれませんか、と言ったことについて、榎木は印象深く語っていました。榎木は、自分が競艇界の大先輩に対して、初めてで言葉をきちんと交わし、その上、ペラを見せてください、と言えただろうか、いやできなかったとだろうと顧みます。このような波多野の物怖じしなさとともに、彼の図々しさを感じさせない人懐っこさにも着目します。一匹狼だった古池と和久井を手を組ませたのも波多野だったと。このエピソードは、新しいものへの順応性と、周りを呼び込む人間性とを表しているようで、自分はよく覚えています。新しいものに早く慣れること、そして個人競技でも人間関係を築き、そこで助け合うことの重要さが伝わってきました。


 以上のように、本作は、競艇を分かりやすく伝えたところ、そして競艇を通じてプロのあり方を伝えたところに特徴と、面白さがあると思いました。