和泉かねよし 『メンズ校』

メンズ校 1 (フラワーコミックス)

メンズ校 1 (フラワーコミックス)


「ウソつけ 26歳処女のクセにッ」

感想


 一巻の途中までは男子校の窮状を面白おかしく提示していくものかなあと思っていました。でも読んでいくと、ちゃんと恋愛してる、少女マンガになってる、と思うようになっていきました。


 本作は、海と山に囲まれた陸の孤島にある全寮制の名門男子高が舞台です。これを形容して、「アルカトラズ刑務所」。この舞台のもとで、盛りのついた男子たちが、女子から隔離された土地で、経験値を減らした状態で、不器用に恋愛をしていきます。主な登場人物は4人。かわいい系で色気はないが、実は短気で武闘派の牧。学年一のいい男で性格もよいのに、実はズボラで部屋が汚い神木。インテリ系のイケメンで頭が回るが、性格が悪く、言動が下劣な野上。そして、乙女系で男のほうが好きな花井の4人です。


 第一話を読んだときは、男子校でのドタバタを売りにしていくのかなあ、と思いました。男子高での男の生活を描いたら、それなりに面白いんだろうなあと考えていました。けれど、それはすぐに裏切られました。むしろ恋愛がメインに押し出されていました。けれど、その裏切られ方が心地よかったです。


 なぜかというと、男子校で恋愛話に持っていくのを、逆に上手いなあと思ったからです。というのは、イケメンが恋愛していても、すっと感情移入できる舞台を作り出しているのです。男子高の暮らしのせいで、普段は妄想ばかり。そのため実際に女子に会うと、舞い上がって、うまく立ち回れずに、奇行に走ったり、言動が滑ったりしてしまいます。つまり、イケメンたちの恋愛の経験値が少ない状況を説得的に作り出していて、イケメンの恋愛が絵空事になっていないのです。イケメンたちの不器用な恋愛に感情移入ができてしまうのです。この点が、とても巧みだなあと思いました。


 エピソードで、自分が一番おもしろかったのは、野上と福原先生の絡みです。野上の下劣な言動がぶっ飛びすぎていてたまりませんでした。また、純情で素直な福原先生が野上に対して、素で反撃しだすところも吹き出してしまいました。性格を直す本を真面目に送るところは爆笑してしまいました。


 恋愛と笑いを気軽に楽しめるいいマンガだと思いました。

河合克敏 『モンキーターン』

モンキーターン 1 (少年サンデーコミックススペシャル)

モンキーターン 1 (少年サンデーコミックススペシャル)


「はいあがって来なければ終わってしまう。
あきらめるのは、ケガと闘って闘って闘い抜いてからにして。」

感想


 本作は、主人公の波多野健二が、高校の担任に競艇選手になることを勧められ、担任に競艇場に連れて行ってもらった経験から、競艇選手の養成所に入り、そこを出てプロとして活躍する姿を描いたものです。本作を読んで、競艇について、一通り分かるようになれました。


 私は競艇について、その存在を知っているけれど、それがどのようなものかはいまいち分かっていませんでした。しかし、本作を読み進めていくと、競艇ってこんなスポーツなんだ、というのが徐々に理解できました。スピードが80kmも出るところ、80kmを出しながら6艇で高速旋回をするところ、競技開始よりも助走を早く始めるという変わったスタート方式(フライングスタート法)を採用しているところ、などなど競艇の基本的なところが丁寧に描かれていました。その基礎の部分を、競艇選手の養成学校を通じて描いていたため、すんなりと競艇の世界の中へ入っていけました。競艇について、作中で印象的だったのは、ケガや命の危険と常に隣り合わせにもかかわらず、選手たちは一着を目指してギリギリのところまで張り込んでいるところがとても印象的でした。競艇へのイメージが変わりました。とてもストイックなものだと思いました。


 また、レース以外での選手の生活は素人からすると最も分からなかったところですが、この部分も丁寧に描かれていました。選手はただボートに乗って走るだけではないこともきっちりと描かれていました。レース期間中は、ピット裏でエンジンやプロペラの整備などに忙しく動き回っているところ、夜は宿舎に泊まり外部から隔離されるところなどが分かりました。また、レース期間以外でも、プロペラの作成に励んでいることも分かりました。


 別の点になりますが、競艇のような個人スポーツにおいてプロはどうあるべきかについても描かれていました。主人公の波多野がなぜ成功していくかを、本巣研修所の教官、同期の純や三船ら、師匠の古池さん、先輩の洞口父や榎木ら、そして洞口息子と青島たちが語っていきます。その中で自分が印象的だったのは、「艇王」榎木が波多野の人懐っこさと物怖じしなさを語っていたところです。波多野が榎木に対して初めて会話を交わす時に、優出できたらプロペラを見せてくれませんか、と言ったことについて、榎木は印象深く語っていました。榎木は、自分が競艇界の大先輩に対して、初めてで言葉をきちんと交わし、その上、ペラを見せてください、と言えただろうか、いやできなかったとだろうと顧みます。このような波多野の物怖じしなさとともに、彼の図々しさを感じさせない人懐っこさにも着目します。一匹狼だった古池と和久井を手を組ませたのも波多野だったと。このエピソードは、新しいものへの順応性と、周りを呼び込む人間性とを表しているようで、自分はよく覚えています。新しいものに早く慣れること、そして個人競技でも人間関係を築き、そこで助け合うことの重要さが伝わってきました。


 以上のように、本作は、競艇を分かりやすく伝えたところ、そして競艇を通じてプロのあり方を伝えたところに特徴と、面白さがあると思いました。

新川直司 『さよならフットボール』

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)


「フィジカルにとらわれていたのは―――私だ」

感想


男女がギリギリで一緒にプレーできる中学生の時期を、スナップショットみたいに瑞々しく切り取っている、という印象を受けました。でも躍動感があって、それと相まって美しいとも思いました。とてもキラキラしている作品です。


恩田希は、中学のサッカー部に選手として所属して、女子ながら男子に交じってプレーしている。しかし、試合には出さないという条件で入部を許されている。にもかかわらず、恩田は試合に出ようとする。その訳は、小学校の時に恩田がサッカーを教えていた男子と再会した時にあった。男だけが持つフィジカルの前に、女は何もできない―と、言われてしまったのである。


このように、本書のテーマとして、男女の肉体的違いと、フィジカル対トータルフットボールとがあります。これらがとても分かりやすく伝わってきます。というのも、設定が絶妙だからです。相当不利ではあるものの、女子が男子と肉体的になんとかやっていける時期に、男子に立ち向かう女子のプレーヤーを主人公として投入しています。この設定はテーマとマッチしていて、とても説得力がありました。


また、サッカーの描写も躍動感があって、見ごたえがありました。プレー中の描写は、そのアングルがぐるぐる変わるのですが、一つ一つが迫力をもっていて、抜き去るところ、スルーパスが通るところ、そしてタックルで接触するところなどなどが次々に出てきます。サッカーの名プレー集のスナップショットを見ているような気になれました。それから、作中で流れる時間はほんのわずかです。1週間、長くて2週間だと思います。一瞬とも言えそうな短い時間の中で、登場人物たちが生き生きと描かれていて、なんというか、美しいな、と思いました。


二巻で終わってしまって、もう少し続きを読みたいと思うところもあります。でも、ここで終わらせることで、ごく限られた時期の瑞々しさや美しさが輝くようにも思いました。

矢沢あい 『天使なんかじゃない』

天使なんかじゃない 1 (集英社文庫(コミック版))

天使なんかじゃない 1 (集英社文庫(コミック版))


「うれしい時はちゃんと喜んで
悲しい時はちゃんと泣けるような
そんな あたり前のことが
みんな 意外と 出来なかったりするのよ」

感想

「あたしは冴島翠みたいになりたい。」本作はこの一言に尽きると思います。自分は男ですが、翠みたいな女の子に、女の子は憧れるんだろうなあ、と思いました。元気で、明るくて、しっかり者で、クラスどころか学校のムードメーカーで、生徒会役員で、そこで恋人を見つけて…、なんていくらでも挙げられそうですね。一言でいえば、同性からも異性からも好かれるような人です。そんな人は、女性にとって憧れだと私は思っています。同時に、男にとっても、翠みたいな人は憧れる人だと思います。


それから、対極的な人物として麻宮を翠の近くに配置したこともうまいと思いました。彼女は、美人で秀才ではあるものの、意地っ張りで素直じゃなくて、翠みたいな人気者でムードメーカーではありません。そんな彼女を近くに置くことによって、読者が感情を移入できる場所を作ることにつながったと思います。


また、新しい情報の出し方がうまいと思いました。ほとんど、人物や関係の設定を説明していないんじゃないかと思います。全て、登場人物の行動と説明から語られています。よって、一人一人のコミュニケーションや反応に矛盾がないと思いました。そこから、臨場感があって、キャラクターが生き生きとしていると感じました。

都戸利律 『環状白馬線 車掌の英さん』

環状白馬線車掌の英さん (花とゆめCOMICSスペシャル)

環状白馬線車掌の英さん (花とゆめCOMICSスペシャル)


「一緒に時を過ごせるのは乗り合わせた人だけだ
だから
ほんの少しでも乗り合わせたなら幸運だ」

感想


人と人とを紡ぐきれいな物語でした。絵本になりそうなくらい、いやむしろ絵本よりも澄みきっているお話でした。天野こずえさんの『あまんちゅ!』のような純粋で、どこかくすぐったくなるような感じも受けました。


シティ内を走る環状白馬線の車掌として勤める英さん。彼は、ちょっとぶっきらぼうな物腰です。彼は、世界のほんの一部の、でも様々な人たちと、わずかな時間を共に過ごします。わずかで一部かもしれないけれど、知らない誰かと知らない誰かをつなぎあわせるのが電車ならば、それは世界の全部を走っているのかもしれません。つまり、英さんは、少々として、人を紡ぎあわせるという偶然の幸福を人々に届けているのです。だから、人々は、車掌の英さんと乗り合わせると、幸せになれる、なんて考えてしまうのかもしれません。


素敵だと思った言葉は、冒頭の言葉と、もう一つの言葉。それは、「出会いと別れは同じだけあるが 一番多いのは”出会わない”だ」、です。出会える人、別れてしまう人は、ほんのわずかということです。このことは当たり前かもしれません。けれど、そんな当たり前のことを忘れてしまいがちだと思い、考えさせられました。


また、都戸さんの作品を読むのは初めてですが、構成に恐ろしいほど無駄がないと思いました。そういう意味でもきれいな作りだと思いました。

シギサワカヤ 『ファムファタル〜運命の女』

ファムファタル 1―運命の女 (電撃コミックス)

ファムファタル 1―運命の女 (電撃コミックス)


「…どうしようもなく
引き返す気なんかまるで起きないほど
…この女に全部持って行かれている」

感想

 シギサワさんは、自分だけで考えすぎて空回りしてしまう人々を等身大に、艶かしく、そして魅力的に描いていると思います。みんな、小さな事に悩んだり、見栄を張ってしまって後々それに行動を縛られたりしているから、シギサワさんの書く作品に共感できるのだと思います。


 本作も、そんな面倒くさくて、人間臭い人々が活躍したりしなかったりする物語です。一言で言えば、主人公のハイ(斉藤一)がサークルの先輩(海老沢由佳里)に片思いして、彼女に振り回されるお話です。海老沢さんがこれまた厄介な人です。彼女は、一見、天然でほわほわしていて、誰にでも人当たりがよい。けれど、実はそうではなく、他人にものすごく気を使い、できるだけ計算して行動する人である。彼女はハイの前でそんな姿を時折現し、ハイはそこに惹かれていくのでした。


 海老沢さんが、本作の魅力でしょう。自分にだけ隙を見せる女の人って、とても魅力的に映ります。普段の顔とのギャップに加え、彼女にとって自分が特別な存在だと思える優越感があるからなのだと思います。だからこそ、海老沢さんに振り回されるハイの思考と行動に既視観を覚えてしまいました。


 また、ハイにとって、海老沢さんのような人は、理解できない人として描かれています。そもそも出会いからして、「一」を「ハイフン」と呼ぶことからはじまり、ハイが高校からの彼女と別れる原因を作り、その上海老沢さんは彼氏がいるのにハイに近づき、しかも隙を見せていくのです。こんな女の人の考えていることなんて分かりません。分からないこそ、知りたくなるんですよね。気がついたら、自分も海老沢さんのことを知りたいと思うようになり、彼女にのめりこんでしまいました。

宇佐悠一郎 『放課後ウインド・オーケストラ』

放課後ウインド・オーケストラ 1 (ジャンプコミックス)

放課後ウインド・オーケストラ 1 (ジャンプコミックス)


「無理に言葉にしなくていいから
今のあなたのその胸の中の感情を
そのまま覚えていられる?」
部活の楽しさが詰まった物語。

―感想―


こんな部活の日々を過ごせられたら、どれほど毎日が楽しいんだろう、って思いました。自分が部活をやっていた時も、楽しかったよなあ、って思っていますけれども、さらにこんなんだったらよかったなあと思えました。


この本のあらすじは、中学時代は無気力だった平音佳敏が高校に入って、一度は廃部された吹奏楽部を初心者ながらも立て直していくというものです。彼は、初心者かつ無気力だったのにも関わらず、リーダーとなり吹奏楽部をまとめ上げていきます。


平音は、本当に地味な主人公だと思います。ルックスがいいわけでもなく、音楽の才能があるわけでもありません。ただ、それにも関わらず、彼は部を再度発足させ、部長として皆を引っ張り、さらにトランペットの腕を上昇させていきます。設定の割にはできすぎな気も否めません。


ただ、だからこそこうだったらよかった思えるのかもしれません。なぜかというと、平音は右も左も分からず、試行錯誤をしているけれども、彼が周りに助けられながら、自分の行動が認められ、上手くいっているからです。もしそうだったら、よかったなあと思えるのです。可愛い女の子、自分を導いてくれるちょっと自信満々な同級生、そして適切にアドバイスをくれる先輩たちと過ごし、その中で自分が一歩踏み出して頑張ったことが「やるじゃん」って認められていく。そうなったら嬉しいし、自分が過ごした時間はすごく楽しかったと思えるのです。


個人的には、クールでストイックだけど、面倒見のいい松田先輩のような人がいてくれたらよかったなあ、と思います。ちょっとつまずいた時に、受け止めてくれて、認めてくれて、その上で背中を押してくれる彼女が、すごく好感を持てました。


以上のように、この本は楽しい部活の時間を提示してくれているように思えました。