こうの史代 『夕凪の街 桜の国』

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)


100頁ほどの短い作品の中に、強烈な問題提起があります。
それから目を反らさないでほしいです。



◆あらすじ◆


「夕凪の街」と「桜の国」の二編の物語からなる。
前者は、被爆者である皆実が生きる原爆から十年後の世界を描く。
後者は、皆実の姪であり被爆者の母を持つ七波が生きる現代世界を描く。
両者ともに、戦後における原爆の影響を描き出す。



◆感想◆


一読した後、しまったと思いました。
安易な気持ちで読む漫画ではありませんでした。
無防備な状態では、この漫画が投げかける問題提起を受け止められません。


本作品はヒロシマ、すなわち原爆を題材にした二編の物語です。


「夕凪の街」では、原爆から十年後の世界が描かれます。
そこでは、被爆者である皆実を中心に描かれます。
もう一つの「桜の国」では、昭和六十年頃と平成十六年頃の二つの時代が描かれます。
そこでは、被爆者を母に持つ七波を中心に描かれます。


この二編の物語は、原爆がふつうの人々にもたらしてしまった意味や効果について、まっすぐ切り込んできます。
どんな意味や効果なのかというと、端的に言うと原爆がもたらした異質さです。
その異質さを本人たちの心理描写を通じて、とても痛烈に描き出します。
例えば、皆実のモノローグで「おまえの住む世界はそっちではないと誰かが言っている」です。
この文章では、皆実が、普通には生きていけないと思っていることが分かります。
つまり、受け入れられないことを悟っているのです。


以上のような表現は、異質さとどのように向き合っていけばよいのだろうか、という問題提起につながります。
現代に生きる私たちが、原爆を血に刻む人々とどのように接すべきなのか、という問いを投げかけます。
作者は、その答えを「桜の国」で出しているように思えます。
異質さへの忌避から決別して、向き合うことを答えとして提示していると受け取れます。
無知からくる決めつけではなく、その決めつけを解放することを一歩目とすることだと、自分は受け取りました。