山崎紗也夏 『東京家族』

東京家族 1 (双葉文庫 や 23-1 名作シリーズ)

東京家族 1 (双葉文庫 や 23-1 名作シリーズ)


いい意味でドラマ的。
1人1人の人物描写と、明快な物語構成が魅力的。



◆あらすじ◆


主人公である原田壮は小説家であり、「原田現象」としてメディアにも取り上げられる程。
その反面、女遊びが激しい所も知られるようになってきている。
そんな風に作家としては順調だったが、昔の女と子供が訪れる。
彼女は仕事のため、子供を養ってほしいと壮に訴え、壮も快諾する。
しかし、昔の女と子供は複数いた―子供は6人!。



◆感想◆


この作品には引き込まれました。
ちょっと現実離れしているけれど、現実にあったら面白いかも、と思わせるような設定。
一話一話の導入から山場、そして落ちまでがメリハリがついていて分かりやすい物語。
豪快かつ奔放、それでいて寛容でもあり、それを可能にする経済力を持つ魅力的な主人公。
とまあ、良質のテレビドラマを見ているような錯覚を受けました。


一番魅力があると感じたのは主人公です。
たとえば、洞察力があるところ、筋を通すところ、懐が大きいところ、子煩悩なところなどです。
その魅力は、今まで別々の暮らしをしていた子供たちとの生活の中で発揮されます。


壮と6人の子の生活は最初はうまくいきません。
原因としては、父子間というよりも子同士または子供そのものにありました。
子供はそれぞれ壮とは血がつながっていても(1人例外がいますが)、母親および今までの暮らしが違います。
なのでいきなり家族生活をはじめたら、やはり問題が起きます。
そこを上手く解決していくのが、壮です。
問題が起きても受け入れ、1人1人の性格を持ち前の洞察力で把握し、筋を通しながら、こどもを第一に行動していくことで問題を解決していきます。
それを積み重ねていくことで、子供たちの信頼を獲得していき、家族としてまとまっていきます。
いつの間にか、子供たちみんなが壮の元で暮らすことを当たり前のように思っていきます。


自分もいつの間にか壮と子供たちを家族としてみなしていることに驚きました。
物語の途中で、母親のうちの1人が原田家に押しかけます。
その時に、それはないだろう、と思ってしまいました。
7人が自然だ、とみなしていたのです。
すっかり引き込まされてしまいました。


しかしながら、主人公の魅力のみが、引き込む魅力ではありません。
物語や設定などではなく、描写の方に原因があると思います。
それは、人物の書き分けがしっかりしているところです。
しかもその書き分けに、その人物の性格や主義主張を伴わせています。
目や瞳、眉毛、唇、口などの細かい部位が綿密に描写されていて、登場人物の行動パターンをにおわせています。
主人公の壮は、眉毛と目が垂れていて優しそうに見えるが、眉毛が太くてしっかりと、口が大きくて懐の深さが見られます。
このように、登場人物全員を表面的に区別するだけでなく、内面にまで踏み込みつつ書き分けているところが、本作の魅力を作っている要素であるとも思います。