石黒正数 『ネムルバカ』

ネムルバカ (リュウコミックス)

ネムルバカ (リュウコミックス)


内輪だけの馴れ合いは心地良い。
けれども、そこに成長はない。
だからといって正式な裁きを受ける覚悟も実力もない。
あったとしても、その先にあるものは本当に望むものなのか?

―あらすじ―


大学の女子寮で同室の先輩と後輩。
先輩はバンドでプロを目指していて、金欠だが充実した日々を送る。
後輩はとくにやりたい事がみつからず、どこか物足りない日々を送る。
二人の時間は、先輩が目標を叶えたように見えたとき、終わりを告げる。

―感想―


緩そうな日常に垣間見える辛辣な視点が存在する物語です。
とても考えさせられました。
その視点は三つあります。


一つ目は、自称アーティストの自己完結性です。
内輪で需要と供給が完結して、自分に才能があると勘違いする痛さが描かれています。
作中では「駄サイクル」と表現されています。


二つ目は、やりたいことが見つからない人の満たされない感覚です。
先輩のような目標に向かって努力する生活は想像できない。
だが、なんとなく日々を過ごし、流行ものに左右される嫌な生活なら想像できる。
そんな対比を歯車に見立てて、噛み合う先輩をうらやましいと思う後輩が描かれています。


三つ目は、目標を叶えることの難しさです。
先輩はデビューを果たすが、それはバンドではなくソロでデビューする事になります。
先輩は突破口を作るためにその話に乗ってしまいます。
そうでもしなければ、何も始まらなかったことを先輩は分かっていたようです。
その困難を壁を掘ることに見立てて表現しています。
でも周りに作りあげられる事により、壁は簡単に掘れてしまいました。
自分が介在しない先輩の喪失感を後輩が察する姿が描かれています。


以上の日常に隠れている厳しい視点が今も胸に残っています。