木村紺 『神戸在住』

神戸在住(1) (アフタヌーンKC)

神戸在住(1) (アフタヌーンKC)


神戸の地震という文脈、その延長線上にある人々と日々。
日常の出会いと別れに伴う喜怒哀楽がふんだんに描かれている貴重な作品。

あらすじ


神戸の大学の美術科に通う、大人しめの女の子、辰木桂。
友達のこと、大学のこと、絵のこと、そして地震のこと。
それらを中心とした神戸での日々です。

感想


とても特異な作品です。
フィクションなのに徹底的に現実的な日常を描いた作品です。
そこに面白さを見出せる人には、強くおすすめできます。
そうでない人にも、手元に置いていて欲しい作品です。


この作品で特徴的だと思った点が二つあります。
まず一つは、文脈の差異を鮮明に描いている点です。
その文脈の中で最も大きいのが阪神大震災の経験の有無です。


桂の生活は、神戸は大学からという文脈を持ちつつも、以下の四つの柱からなっています。
1.和歌子と洋子
2.タカ美(その場として美術科および英研)
3.日和
4.家族


そう彼女は地震を経験していません。
時々垣間見える地震のときに負った心の傷を桂は共有できません。
ちょっとした疎外感を味わう場面が第1話に描かれています。
こういった、ふと襲われる隔絶が何気なく出てくるこの作品には、ハッとさせられます。


この作品のもう一つの特徴として、喜怒哀楽の中で「哀」が引き立っている点があげられます。
その原因は、当たり前な日常の良さがきちんと描かれているからだと思われます。
友達や家族との付き合い、季節の変化、街の知らない部分の発見が多く出てきます。
それがまるで当然であるかのように。
でも本当は違って、必ず変化するものであります。
必ず別れがあります。
この点をきちんと抑えておくことで、「哀」がいっそう引き立つのではないのでしょうか。


さて主人公である桂もその当たり前が崩れてしまう「哀」を経験します。
その一連の話と向き合うのはちょっとパワーが要ります。
向き合いたくないと思わせてしまう、徹底とした描写を是非一度見て欲しいと思います。