佐藤大輔、伊藤悠 『皇国の守護者』

皇国の守護者 1 (ヤングジャンプコミックス)

皇国の守護者 1 (ヤングジャンプコミックス)


死の運命にある殿軍の一将校に焦点を当てている。
小心だが聡明かつ経験豊富な彼が、必死の状況をどう生き抜くのか。


「現状はどう控えめにみても地獄だ」
戦争における狂気を、しかも劣勢の立場のを、よく表現している。
この作品は、面白い―



―あらすじ―


龍やテレパシーなどが存在し、時代は19世紀半ばに相当する仮想世界での侵略戦争
「皇国」軍の将校である新城直衛は、「帝国」の侵攻に対する防衛戦に参加する。
皇国軍は初戦にて大敗し、司令部は主力を撤退させる決定を行う。
新城の所属する大隊は、撤退を支援する殿を務めることになる。



―感想―


同名の小説(著:佐藤大輔)を漫画化したものです。
なお、私は小説は読んでおりません。


仮想世界が舞台、すなわちファンタジーです。
多々設定はありますが、幕末〜明治初期に架空の存在を足しているだけなので、そこまで抵抗はありませんでした。


作中での皇国と帝国との戦力差は明らかです。
まず、冒頭では総司令の無能ぶりが際立ちます。
初戦では、臨機応変かつスムーズに軍を指揮できない皇国に対して、帝国は迅速かつ一点集中的に軍を運用します。
結果、皇国軍は大敗し、総司令は真っ先に退却するという有様。
その後、帝国軍には増援が到着し、両軍の戦力比は6対1となり、防衛すら叶わぬ状況に。


新城が奮戦する殿では、更に厳しい状況に置かれる。
大隊ひとつで、敵の追撃を10日間しのがなければならなくなる。
しかも大隊の主力である「剣牙虎」(サーベルタイガー)は、あっという間に十分の一以下に。
将校も残り少なく、兵は寄せ集めで疲労困憊。
一言で言えば、全滅といわれてもおかしくはない状況です。


この絶望的な状況を、新城はなんとかしようとします。
彼は実戦経験が豊富で、勘もよく、冷静に状況を把握できます。
そして、無謀な軍の運用は避け、兵を徒に消耗させません。
誇りや名誉という名目での玉砕などを嫌っており、兵からの信頼も厚いのです。
無能な皇国軍と、絶対的な戦力を持つ帝国軍と、両方から新城の有能さが際立ちます。
その一方で、彼の見た目はよくありません。
体格は良くなく、顔つきも三白眼で醜男と言われる要望です。
他方では、彼の小心さも目立ちます。
戦いの前では、体の震え、歯の軋みが止まりません。
際立つ有能さと、人間的な弱みとの両方を備えているのが描かれています。
感情移入のきっかけになり、世界へのめりこまされます。


そんな新城は、作中を通して戦い続けます。
人、弾、刃、血が飛び交う戦場の狂気が、殿軍の地獄がひたすらに続きます。
新城に、皇国軍に、感情を任せてしまった自分は、その狂気に触れ、大変興奮しました。
ページをめくらせる手が止まらないという感覚を覚えた作品です。